2005年01月22日 by 重松マンション管理士事務所所長・マンション管理士 重松秀士
裁判所の封筒で被告にいわゆる「呼び出し状」が届きます。普通の人は相手がここまでやってくるとは思っていませんからびっくりします。そしてこの時点で「ごめんなさい払いますから…」と言ってくる場合が多いのです。
案の定、小柳さんも「答弁書」を出してきました。「原告の主張は認めます。お金も払います。でも資金的に苦しいので分割でお願いします。」という内容でした。
私は内心「やった!これで回収できる。」と思いました。早速書記官とも連絡をとりましたが以下はそのやり取りです。
私 :「答弁書をいただきました。ありがとうございます。」
書記官:「これで和解が可能と思います。小柳さんにも公判当日はきちんと出廷して原告と話し合って解決しなさいと言いました。」
私 :「今後の支払い等についても話し合いの対象になりますか?」
書記官:「はい対象になります。」
やはり裁判をやってよかったと思い、後は公判の日に被告と話し合う準備のみを管理会社の社員とやっていました。
「管理費を2年以上もあつかましく滞納する小柳さんはいったいどんな顔をしているのだろう?」などと考えながら、今回はこれで簡単に解決すると考えていました。
ところが公判当日、指定の時間になっても小柳さんは現れません。
書記官も裁判官も定刻より15分遅れまで待ってくれましたがそれでも現れませんでした。
仕方なく欠席裁判で審議が始まります。当方の主張を全て述べたうえで証拠調べも終わり裁判官が「どうされますか?判決を求めますか?」と聞いてきたので私は「死刑にして下さい」と言いましたが、こういう場所での冗談はあまり受けませんでした。その後裁判官は淡々と「請求どおりの金額を払え」「裁判費用は被告の負担」「仮執行ができる」旨の判決を下して20分足らずで終了しました。
こんなあつかましい被告は裁判で白黒つけてもどうせ払いっこないと思ったので、その後はルールに基づき「強制執行」の手続きを開始することにしました。
可能性のある方法は
ア)小柳さんの財産(例えば預金通帳など)を差し押さえる。
しかしこの方法は調査能力のない管理組合にとっては現実的には不可能でした。
イ)マンションンの賃借人の家賃を差し押さえる。
この方法も有力ですが、この場合は賃借人が1ヶ月間で3日程度しか住んでおらず、「差押命令」が賃借人にきちんと送達されない可能性が高く、功を奏さないと思いました。管理員さんから賃借人の名前などは聞いていたのですが住民票もその住所にはなく、打つ手がなく困りました。
ウ)小柳さんの給料を差し押さえる
最後の手段は小柳さんの給料を差し押さえる方法です。
勤務している会社は連絡先帳簿により把握していたのでもうこれしかないと思い、早速会社の商業登記簿を取って、手続き開始です。
商業登記簿謄本を取ってまたしてもあきれました。実は小柳さんはその会社の社長だったのです。しかも資本金数千万円のIT関連の会社で、HPも調べたらベンチャービジネスで大活躍しているように感じられました。
こんなかっこいい会社の社長がどうして30万円くらいの管理費を滞納するのか信じられませんでしたが今後の方針決定について私は迷いました。
ある会社の社長に対して、「お宅の社長は○○マンションの管理費を滞納しているので役員報酬を差し押さえて当管理組合の方に支払いを回してください。」と言ってみても実際は効果があるのだろうかと思ったからです。
しかし、地方裁判所を訪問し実情を話して相談すると、法律的には可能であることが分かったので「破れかぶれ」、「だめもと」で正式に強制執行の申し立てをして来ました。
後は相手の出方を見守るだけです。
手続きをして10日位だったでしょうか、小柳さんから私宛に直接電話がかかってきました。
電話の声や話し方はとても丁寧で私が抱いていた「極悪非道」のイメージは全くありません。
「ご迷惑をおかけしました。自分が個人で全額支払いますのでよろしくお願いいたします。」という内容でした。私は管理会社の担当者と至急連絡をとり裁判の訴額以外に、「裁判費用」、「コピーや謄本取得の諸経費」、「私たちの交通費」及び「裁判以降の管理費等」など全てをまとめて請求しましたが全額支払ってくださいました。
正直言って、ここに至る経緯から判断しても相当苦労するだろうと思っていたので解決して本当によかったと思います。
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